企業が「家計」をケアする時代へ──産業FPという発想
家計診断アプリの設計について前回お話ししましたが、ここで一度立ち止まって「なぜ職場で家計をサポートする必要があるのか」を整理したいと思います。
実は、こここそが「産業FP」という仕組みの中核です。
◆ 家計は“個人の問題”ではなく、組織の生産性リスク
近年、従業員支援(EAP)や健康経営が広がっています。
しかし、その中に最も大きなストレス要因であるはずの 「家計」 が、ほとんど含まれてきませんでした。
- 離職
- メンタル不調
- 不正・横領
これらの要因の背景には、「お金の心配」による慢性的なストレスが関わるケースが少なくありません。
つまり、家計は「個人の私生活」ではなく、企業にとって重大な組織リスクなのです。
◆ しかし、従来のFP相談は“現場では回らない”
企業が従業員のためにFP相談会を導入するケースは増えています。
ところが、現場では次の問題に必ず直面します。
- 相談が属人的になる(担当FPの力量に依存する)
- 従業員が「何を相談すべきかわからない」まま終わる
- 相談内容が会社に共有されず、改善の手がかりにならない
ここですれ違いが起きます。
従業員は「プロに話すほどでも…」と思い、
企業は「相談会を設けたのに活用されない」と感じる。
このギャップを埋めるものが、
「スクリーニングとしての家計診断アプリ」です。
◆ 診断 → 相談 という順番が、現場では合理的
家計診断アプリがあることで、従業員は
- 自分の状況が「良いのか・悪いのか」
- どこが課題なのか(住居費・保険・借入など)
を事前に把握できます。
これにより、相談は具体化し、
“必要な人に、必要な支援を”という形が実現します。
◆ 産業FPとは「家計 × 組織づくり」の再設計
私が考える産業FPとは、個人相談を増やすことではありません。
「従業員の家計ストレスを、組織としてマネジメントする」
そのためのデータ・仕組み・対話を設計することです。
家計は“見えないストレス”です。
見えないものは、管理も予防もできません。
だからこそ、まずは「可視化」から。
◆ 次回予告
次回は、産業FPを実際にどのように企業の中に導入するのか、
小さな PoC(試験導入)の設計方法についてお話しします。
いよいよ、実装フェーズに入ります。


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